英単語学習教材(2)

これから何回かに分けて、英単語学習アプリ「ボキャブ・ラボ」で採用したアプローチを詳しく説明します。

対象語彙グループを含む英文テキストを活用する

英文を読みながら語彙を増やしていくアプローチの問題としては
・語彙を重要度(頻度)順に学習出来るよう構成するのが難しい
・覚えるべき語彙を全てカバーしようとすると英文量が膨大になる
などがあります。これは特に大学受験のような限られた時間で一定の語彙を獲得する必要があるような状況で問題となります。

ボキャブ・ラボでは全1800語を、CEFRのレベル分けと大学入試での出現頻度を参考に6つのレベル(各300語)にグループ化し、レベル順に学習していくよう構成されています。その上で各レベルの語彙を含む短い英文テキストを用意し、単語を覚える作業と並行して英文を読む練習をするよう設計しました。語彙をレベル順に学習し、効果を実感しながらステップ・アップしていくことを重視したアプローチです。

並行して読む英文テキスト教材については次のようなアプローチをとっています。
まず、英文はWikipediaから抽出しているのですが、ここではSimple English Wikipediaという教育目的に易しい英語で編纂し直した記事コーパス(約17万記事)を対象にしました。ここにある全記事を150~250語程度の段落(群)に分割しデータベースを作成します。この2~3段落からなる短い英文がテキスト教材の候補になります。次に、各レベル毎に対象語彙グループ(300語)の数語を含む英文テキストをデータベースからランダムに抽出し、英文数を増やしながら各レベル毎に出来るだけ多くの対象語彙がカバー出来るよう調整していきます。
例えば、レベル1の単語300語に対してこの抽出法を実施したところ、英文数と対象語彙カバー率は以下のような結果になりました。ランダムに抽出しているので試行ごとに数字は変わります。また実際にはテキストの難易度や含まれる対象語彙の最大数などのパラメターを調整しながら抽出作業を行なっています。

抽出した英文数含まれる対象語彙数各英文あたりの対象語彙数
(重複を除いた平均)
73テキスト300/300語4.1語
50テキスト256/300語5.1語
40テキスト221/300語5.5語
30テキスト171/300語5.7語
20テキスト120/300語6.0語
レベル1の対象語彙を含む英文テキスト抽出(例1- Simple English Wikipedia)

なお、次の表は、対象コーパスを標準のEnglish WikipediaのGood Articlesカテゴリー(約3万記事)に切り替えて同じ抽出法を適用した結果を示しています。対象コーパスを変えても似たような結果になっています。

抽出した英文数含まれる対象語彙数各英文あたりの対象語彙数
(重複を除いた平均)
71テキスト300/300語4.2語
50テキスト256/300語5.1語
40テキスト215/300語5.4語
30テキスト165/300語5.5語
20テキスト113/300語5.7語
レベル1の対象語彙を含む英文テキスト抽出(例2- English Wikipedia Good Articles)

上の例では、対象語彙グループの全300単語をカバーしようとすると、70~80の英文を読まなくてはなりません。一方、各レベル300語の英単語を一ヶ月程度で習得していくペースを想定すると、並行してその期間に読める英文量は標準的には20~30英文ぐらいかと考えます。大学受験の教材として、どのくらい時間を割り当てることができて、その中でどのような効果が期待できるか?をバランスさせる必要があります。

ボキャブ・ラボでは標準の学習モデルとして、各レベル300語/20英文/月を基本形とし、1日15~20分程度の学習時間を想定しました。必須単語を固めていく学習は単語カードを主体とし、英文テキストでは語彙強化と同時にリスニング・速読のスキル強化を目指す、という2種の教材を緩やかに連携させ学習を進める設計になっています。ここでは対象語彙の全数が同じレベルの英文テキストでカバーされる訳ではありません。ただ、前後のレベルの英文テキストを合わせてカバー率を高めていくことも出来るので、さらにチューニングしていく余地がありそうです。また、もう少し時間を割ける生徒には、各レベルに追加で学習する英文テキストを用意することもオプションとなります。

(次回に続く)