随分昔の話ですが私が受験生だった頃は「試験に出る英単語」という英単語帳がよく使われていました。「これだけは絶対に仕上げなきゃ」と何回かチャレンジしたものの、結局最後までやり切ることは無かったように思います。その頃は旺文社の「豆単」と呼ばれる単語帳も定番で、どちらか一冊を選んで「何度も繰り返しひたすら単語を覚える」というのが多くの受験生の決まり事だったように覚えています。
今でも受験期の英単語学習の苦労は本質的には変わってはいないと思いますが、利用出来る教材は多様化し進化しています。主教材の単語帳本に合わせて、副教材として、音声CD、練習帳、解説動画、オンラインの確認テスト、などが提供されています。定番単語帳をスマホで勉強できるアプリも質の高いものが出てきています。羨ましいほどの環境ですが、一方、これらをうまく組み合わせて使いこなせるかどうかが受験生にとって大きな差ともなってきてしまいます。特に、効果/時間という観点で。
代表的な単語帳とそのアプローチ
現在よく使われている代表的な単語帳とそのアプローチの違いについて見ていきたいと思います。旺文社の「英単語ターゲット1900」は、単語をひたすら覚えていくタイプのまさに王道単語帳で、副教材も充実しています。覚えるべき見出し単語には、一義的な意味、用法、例文、派生語などが対応付けされ、見やすくレイアウトされています。このタイプの特徴は「出る順」に構成されているということで、使われる頻度を中心に入試における重要度の順番で学習するので、学習過程での効果が少しずつ実感出来る所にあります。駿台の「システム英単語」も同様に、過去の入試問題等の大規模な分析をもとにして頻度順に構成されています。「システム英単語」は用法をセットで覚える仕掛けがあるのですが、基本的には見出し単語をつぶしていくタイプの単語帳であると言えます。
「ターゲット1900」には学習アプリがいくつかあり、私の上の子は物書堂さんのアプリで「ターゲット1900」を学習しました。英語が大の苦手で他の単語帳も相当やったのに成果がなかったのが、「ターゲット」と物書堂さんアプリに助けられ受験英語の出発点に立てた、という感じでした。実際には最初のセット(800語ぐらい)を集中的にやり、最後(1900語)までやり切った訳ではありませんでした。最後まで仕上げればもっと成績は上がったかも知れませんが、ステージが進み初見の単語ばかりが並ぶようになった場合、続けるのが非常に辛くなります。途中までで終わる子も多いのではないでしょうか。
もう一つの有名な単語帳として、z会の「速読英単語」があります。短い文章を読みながらそこで使われた単語を学習していくことで、必修単語(1900語程度)を習得していくものです。英文は75~250words程度で70文収録されていて、どれも質が高くレベル的にも適切なテキストになっています。必修単語を組み込みながらこうした優れた英文を集めていることは驚異的です。z会からは大学受験用「速読英単語」シリーズに加えて、「速読速聴・英単語」シリーズという同じコンセプトの一般教材が出ていて、Basic、Daily、Core、Advancedなど、どれも質の高い英文セットが用意されています。時間があればこういった教材を組み合わせて勉強するやり方もあります。
英文を読むことを通して語彙を強化していく方式は理想的です。一方でこの方法は、「出る順」に単語を並べていくことは難しいので、まず最重要800語から強化するというような勉強法は出来ません。また、実際には覚える単語全てが英文に現れる訳では無く、関連語という形で、英文に登場しない単語も合わせて学習する形を取っています。単語を覚えることにとらわれて英文を読むことを疎かにすると、この教材の良さは失われてしまうのですが、それでも見出し単語をつぶしていくという作業は必要で、悩ましい部分もあります。
「ターゲット」と「速読英単語」は対極にあるアプローチとも言えますが、どちらを選んでも間違えということは無いです。学校や塾で単語帳を配られたり、指定されてノルマが与えられることもよくあるので、複数の単語帳を勉強することも結構あったりすると思います。
これ以外に「Duo 3.0」は、560の例文を通して2500程度の単語・熟語を身につけるというユニークな単語帳で、評価も高く利用者も多いようです。
もう一つ、新しいアプローチとしてとても興味深いのは、鉄緑会の「東大英単語熟語」です。それぞれの英単語の本質・背景(物語と読んでもいい)を学ぶことを通し、定着させる・確実に覚えることに力点を置いた単語帳で、とても理にかなっています。例えば、言葉の意味は、隣接する概念や対立する概念と対比することで明らかになっていく部分があり、関連する言葉と関係付けながらまとめて学習していくことは有効なアプローチです。また「語源」を手がかりにするとも説明されますが、一つの英単語がいくつかの意味を持つ要素の組み合わせで成立していることがよくあり(漢字の熟語のように)、その構造を理解することで英単語の学びを深めるというようなアプローチも盛り込まれています。
単語帳の考察は一旦ここで終わりにして、次回はボキャブ・ラボで採用したアプローチについて詳しく説明したいと思います。